『ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥン………!!!!』 ━━━━━プロンジェが兵器の銃口を大聖の方へ向けると、 『━━━━━ドゴオオオオオオオォォォォォォォォンッ!!!!』 兵器内に溜めたエネルギーを一気に発射した。 電気が閃光に変わり、閃光が巨大なレーザーとなり、大聖を襲った。 レーザーは唸りをあげ、狙いを定めた大聖だけではなく、周囲の物々さえもなぎ倒してしまった。 高速で自分に放たれたレーザーを、大聖は真上に跳躍することで避ける。 レーザーは唸りをあげたまま一直線に飛んでいき、遥か彼方まで向かい、やがて…見えなくなった。 プロンジェが自分に放った攻撃を見て、大聖は愕然としていた………。 『きかいへい』 それは、本来ならこの世界には存在など…しないものだった。 この世界に存在するモノの多くは、自然の天然素材から造り上げたものの数々。 それは、エアリーが手にしている鍛冶道具や、鍛冶の技術により造り上げた武器だって例外ではない。 プロンジェが今手に持っているものは、この世界にとっては異端なものだ。 レーザーを避けると、大聖は海面すれすれのところから如意金箍棒を構え、 「硬くなれっ!!」と叫び、その意思を武器に反映させた。 海面の上に出ることはせず、大聖はあえて水中で戦おうというのだ。 …バイメンがくれた力が、完全に消えるまでは…。 このプロンジェを、彼等に合わせてはならない。 それは、以前行った倭国での宮守の二の舞にならないようにという意図。 危険な兵器を装備しているとはいえ、プロンジェはこの海の住民なのだ。 海面に自分が出たところで、そのプロンジェの姿が見えなくなるというのは危険なことだ。 如意棒を硬くしてから、その先端をプロンジェの方へ向け、一気に距離を詰める。 …そうしようとするも、ここは水中。陸上で戦うときとは勝手が違うのは、目に見えている。 水中の中でありながら自分なりに速く動いたつもりでも、 プロンジェは大聖の動きを先読みし、宙返りをして大聖の背後に回る。 大聖の背後に回ったかと思うと、兵器から大量の核弾頭…魚雷を放つ。 その魚雷もまた…、この世界には存在などしないはずのものだった。 「………なんだっ!!?」 レーザーに続き、魚雷にも驚いて大聖は声をあげた。 初めてみるそれに戸惑いながらも、…わかっていることはただ1つ。 得たいの知れないからとはいっても、大聖のやることは決まっている。 発射された沢山の魚雷の間を縫うように避け、プロンジェとの距離を一気に詰める。 大聖には…プロンジェとは違い飛び道具なる攻撃手段がない。 そのため、慣れていない水中での戦いとなると、高い身体能力とはいえその動きは鈍くなる。 大聖が距離を詰め、如意棒で殴打しようと狙うも、 プロンジェは高速で泳ぎ回りすぐに大聖から距離を取る。 その泳ぐ速さを見て、大聖は焦燥と困惑に精神が追い詰められる。 やはり、水中では敵わないっ………!! プロンジェに距離を取られるも、姿だけは見失うまいと目で追う。 …水中。ここはプロンジェのテリトリーであり、ホームグラウンドでもある。 プロンジェをなんとかして陸におびき出せたなら、自分が有利に戦えるのだが…。 高速で泳ぎ回るプロンジェが、背鰭を翼のように広げ、自分を圧倒する。 あまりの速さに、目で追うのも大変だと感じたとき、プロンジェが一瞬自分の横を通り過ぎて、 「━━━━━いいのでしょうか?おればかりに集中していて…。」 ほんのわずかな瞬間だったが、プロンジェの不敵な笑みと低くなった声がしっかりとわかった。 この意味深な台詞に、大聖が顔をしかめる。 …一体、何を言っているんだという怪訝さも含まれていた表情になった直後、 先程避けたはずの魚雷が自分の背後へ方向転換をして、 一斉に牙を向ける………。 『ドォォォオンッ………!!!』 『バコォォオンッ………!!!』 『ドゴオォオンッ………!!!』 「━━━━━ぐぁあっ!!!?」 避けたはずの魚雷が、自分の方へ向き直し…自分を攻撃した。 避けたものが再び帰ってくる、そんな予想もしていなかったことに大聖は不意を突かれ、 帰ってきた魚雷をすべて受けることになってしまう。 魚雷をすべて受け、大聖は悲鳴を上げ…表情も歪ます。 攻撃を受けた大聖は、斜め下方向へ吹っ飛ばされ、その衝撃で如意棒も手放してしまう。 大聖が見せた大きな隙を、プロンジェが見逃すわけがなかった。 「陸の者が水中で戦おうなど、なんて無謀なことなのでしょうねっ!!!」 不敵な笑み。チャンスを得たという声。 プロンジェは、吹っ飛ばされた大聖に向けて再び銃口を向け、 溜めたエネルギーを光線に変えて一気に放つ。 吹っ飛ばされている間でも、光線を放つ際の光がそれを放つということは教えてくれた。 一瞬意識が飛んだながらも、その光により大聖はハッと我に返り、 自分に放たれた光線を素早く避け、手放した如意棒を手に取り、プロンジェを睨む。 肩を上下させ、痛みに耐えているその証か呼吸を荒くしている。 体勢を整えた大聖を、プロンジェも目を細めて警戒する。 「…成程。攻撃は届かなくとも、避けることは可能なようです。  けれど、まさかこの魚雷にこんな機能が搭載されているとは思いもしなかったようですね。」 「いっ…、今のはっ…!!?あの火炎瓶のようなものはすべて避けたはずだっ…!!」 「戦いの真っ最中に自分の技のことを話す程、おれも親切ではございませんよ。ご自身で察して下さい。」 「………っ。」 魚雷を受けた部位を手で押さえる大聖を見て、プロンジェが分析したかのように話す。 相手が何も知らない技だからといって、それを自ら教えることをしないのは…。 ………プロンジェは、本気で自分を殺す気だ。 「…いいでしょう。」 ふと、プロンジェが兵器の銃口を別の方向へと向け、だが構え方を先程とは変えて話す。 兵器を盾のように真横に構え、大聖の懐に直接飛びこんでくる。 背鰭を翼のように広げ、威圧を込めたその突進攻撃に大聖は怯む。 その怯みがわずかな隙となってしまい、プロンジェの兵器による打撃に反応するのが遅れる。 「………ちぃっ!!」 『キィィンッ!!!』 反応が遅れながらも、大聖は如意棒を突き出し、その打撃を防ぐ。 自分の攻撃を防がれたことがわかっても、プロンジェは取り乱すことはなく、 空いている手の方で大聖の首元を鷲掴みし、そのまま真下に向かって押していくように泳ぐ。 「しまったっ!!」 「攻撃に気を取られてしまったようですね。」 『………ドンッ!!』 「━━━━━がっ!!」 首元を掴まれ、動けなくなった大聖の腹部にプロンジェが蹴りを入れる。 腹部に強い刺激が走り、大聖は大きく目を見開いて悲鳴を上げた。 後方へ吹っ飛んだ大聖を手放すことなく、プロンジェは大聖に追い打ちをかける。 『チャキッ!!』 大聖の額に銃口を構え、 「発射っ!!!」 近距離から、レーザーを放った。 太いレーザーは深海へと飛んでいき、やがて見えなくなった。 プロンジェに掴まれたままレーザーを受けた大聖は、脳みそが吹っ飛んだかのような感覚の陥った。 頭を中心的に攻撃されたためか、思考が、意識がはっきりとしない。 ………身体が動かない。脳が身体に神経を送る、そのはたらきが失われたのだろうか。 動かなくなった大聖の首元から、頭へと移す。 大聖はうっすらを目を開けていながらも、自分は見えていないのか…虚ろな目になっていた。 プロンジェは、そんな大聖の全身を簡単に眺めてから、呟く。 「脳に強い刺激が与えられたためか、ピクリとも動きませんね。ですが━━━━━。」 ━━━━まだ、放っておくわけにはいきませんね。 プロンジェが念入りに観察をすると、大聖を深海の方へと叩きつけた。 少し乱暴に叩きつけられた大聖は、泳ぐこともままならないまま深海へと沈んでいく。 …と思われたが、大聖もまた…大量の死体に混ざり込み、海面へと浮かんでいく。 プロンジェは、海面に浮かんでいく沢山の死体…その中にある大聖の死体だけを見つめた。 プロンジェの中で、密かに気になっていることがあった。 それは、頭に…脳に強い刺激を与えられ動かなくなったが、 大聖が…本当に死んでいるようには見えなかったからだ。 虚ろな目は確かに自分を見つめていたし、わずかながら…呼吸をしているもの感じた。 ━━━━━脳に強い衝撃を与えられたなら、即死してもおかしくはないんだけれど…。 ━━━━━動かなくなった。でも…死んだということが感じられない。これっぽっちも。 海面に浮かんでいく大聖を追いかけるように、プロンジェもゆっくり泳ぎ始めた。 ━━━━━もし、急所を受けてなお動くなら、彼を食い殺すしかなさそうだ。 大聖が倒れても、プロンジェは納得がいっていないのか…、兵器を構え直した。 海の者を陸の者が食い殺すなんて話は、聞いたことがないが。 大聖の真下へ…、隠れるようにしてプロンジェも海面へと進んでいった。 ………。 「━━━━━大聖さん、大丈夫でしょうか…。」 その頃、すっかりほったらかしにされた3人…そのうちの1人であるプティがポツリと呟いた。 プロンジェを探すという目的を主に与えられたにも関わらず、 途中でそれを投げ出すかの如く、大聖は姿を消していった。 海の変化を探るのは、エアリーとシェリーの役目だったはずだ。 「融通が利かないのも困り者ですが、ご自身の独断で勝手に行動されるというのも、困り者ですね…。」 大聖が向かった海の方角を眺め、深く…溜息をつく。 陸の世界において、種族差はあっても身分差というものはないのだろうか。 大聖がもし海の住民だとしてなら、指示とは違う行動をとったことをシェリーが知ったら、 大聖は後にお叱りを受けることだろう、とプティは考える。 主と名乗る者を過ごしてきているがために、この3人はあまり勝手な行動を許されてはいない。 ときにそれは…、主が間違ったことを言っても、になる。 主が絶対的な立場の者ではないとしても、主の存在や発言により平和をもたらすなら、尚更だ。 主の指示よりも、部下が自身の判断が正しいと思ったとしても…。 プティが溜息をついて、近くにいるオタリの方をチラリを見る。 待っていろと自分達に言った大聖の帰りを待っている間に眠くなったのか、 オタリは…海面近くの氷河に上がり、そこで仰向けになって眠っていた。 「…なんと呑気な。」 大聖といい、オタリといい…。プティは呆れた目でその光景を見た。 シェリーの指示を無視するわけにはいかないし、 かといって…自分達の身の安全を考えた大聖の指示も、無視は出来ないし…。 4本ある腕のうちの2本を胸の前で組み、プティは悩んだ様子で俯く。 …これからどうしようかと考えていたその中、 クラインが自分の身体にピッタリとくっついていることに気付く。 それで、クラインは身体をプルプルと震わしていた。 「どうなさいました…?」 「あ、あ、あ………。」 クラインの様子の変化を見て、プティは顔を上げてクラインの方を見る。 プティがクラインを見てみると、…クラインは顔を真っ青にしては目に涙も浮かべていた。 一変したクラインを見て、プティは軽く首を傾げる。 「………クラインさん?」 「プ、プ、ププティさん………。あ、ああああれ………!」 「あれ…?」 腕を組んでいない方の腕に、自分の腕を絡ませギュッと締めつけながら言った。 その声に含まれていたのは…恐怖心。声は震えていた。 クラインが何かに怯えて知り合いにすがるというのはよくあることではある。 ただ…プティが抱いたこととしては、クラインは一体何に怯えているのだろう。 その対象と思われる光景は、周囲を見渡してみてもどこにも見当たらなかった。 ………プティが聞き返すと、クラインは片方の腕を話し、震えたまま…ゆっくりと上げた。 上げた腕の手で、前方の方を指を指す。 その方角は…、先程大聖が向かっていった方角と同じと思われる方角。 …一体、クラインは何を見つけたというのだろう。 不思議に思ったプティは、クラインを連れたまま少しだけ前へと進んでみる。 だいたい1メートルか2メートル程泳いでみると、こちらに向かって何かが流れてきているのが見えた。 何か…いや、誰かは動くことなくゆらゆらと波に揺れながらこちらに流れてくる。 青い海の中でもよく目立つ赤く、長い髪。 その髪を束ねるように、額に巻かれた黄色く、 三日月の形をした装飾がつけられているバンナダ。 陸の獣に非常に近い、褐色の肌。 クラインが見つけた者は━━━━━。 「だっ…、大聖さんっ!!?」 流れてきた人物の姿を見て、プティも血相を変えて近づく。 海に浮かんだ大聖の腰を掴み、くるりとひっくり返し仰向けにさせる。 その後、胸の動きと脈を確かめるため、プティは大聖の身体をジロジロと見つめる。 大聖は…目を閉じている。 「しっ…死んじゃったですかぁっ…!?」 「シッ…。しょうしょお待ちください…。」 ピクリとも動かない大聖。川に捨てられた死体の如く流れてきたそれに、クラインは怯えた声をあげる。 …クラインが恐怖心を抱くのは、プティなら十分にわかることだ。 それでも、大聖がまだ死んだとわかったわけではない、プティは大聖の安否を確認する。 「………。」 「…ど、どうですか?」 「………かすかに息があります。彼はまだ死んでいません!」 「ほ…、本当ですかっ!?」 「えぇ。ひとまず、彼をオタリさんのいた氷河の近くへ避難させましょう。  こんな動けない状態で海の中へ放り出したなら、海の頂点の種族のカモになりますから…。  クラインさん、怖いでしょうが手伝ってくれませんか?」 「えっ…、えっと…。は、はいですっ!」 身体の小さいプティとクラインの力は乏しく、2人より大きい大聖を氷河まで運ぶには、大変なことだ。 しかし…、大聖がこんなことになってしまったというのは緊急事態である。 大聖を死なせまいと、2人は共に大聖の身体を引っ張り、氷河まで運んでいく。 ………意識を失った大聖の下に隠れるように、プロンジェも潜んでいた。 大聖を引っ張りその2人を、プロンジェも知っている。 2人がなぜ大聖を助けようとしているのかを怪訝そうな顔を見るも、 今は姿を現すまいと、プロンジェも2人…、いや、3人の後をついていく。 プティにクラインだけではなく、オタリもいるというのなら、 全員集まったそこで姿を現した方が時間の無駄にもならないし、効率的と考えたからだ………。 流れてきた大聖を見つけた場所から、オタリが眠っている氷河からはそう遠くはない。 それを幸いなことだと思いながら、2人は大聖の身体を引っ張る。 やがて氷河に辿りつくと、大聖の身体を氷河の上に上げて、 眠っているオタリの身体に持たれかけさせるように寝かせる。 「こんな氷河の上に直接寝かせてしまいますと、凍ってしまいますからね。」 鰭脚人であるオタリなら体温も比較的高く、寒さに対しての抵抗力もある。 そのオタリに寄り添わせることで、大聖の身体が冷えないようにしたのだ。 大聖をオタリの肥満型の身体に寝かせ、プティとクラインは様子を伺う。 「あとは、大聖さんが目を覚ますのを待つしかありません。」 「うっ、うぅ…。」 「クラインさん、もう怖がらなくても大丈夫ですよ。」 「はっ…、はいっ…。でっ、でも…。」 「でも?…なんでしょう?」 大聖を避難させた後でも、クラインは恐怖心を捨てることを出来ていないようだった。 すっかり安心しきったプティに対し、クラインは未だブルブルと震えていた。 なんだと聞いた際には、氷河による寒さが原因で震えているのかと思ったが、 顔色が変わっていないあたり、そうではないことを察する。 プティが首を傾げると、クラインは怯えた様子のまま…プティに問う。 「だっ…大聖さんがこんなことになったのって…、なんでですか?」 言葉を途切れながらのクラインの台詞に、プティもハッとして、大聖の方をバッと向く。 大聖がこんなことになってしまったのは、間違いなく自分達をおいてどこかに行ってからだろう。 …プティはよく観察してみると、大聖の身体のところどころに、 何かを受けたような傷跡があった。いや…、傷跡とはいっても切り傷や噛まれた跡という具合ではなさそうだ。 どちらかと言えば、自然現象を直接受けて、 火傷を負ったり焦げてしまったり…と言った方が表現としては合っている。 プティが大聖の身体の触れ、探るように眺めていると━━━━━、 「━━━━━この海の侵入者である彼を、追い返すためにはやむを得なかったんだけどな。」 ━━━━━氷河近くの海の中から、声がした。 ………その声は、オクトラーケン家の者達が恋しくて止まなかった人の声。 いなくなったあの日から、ずっと帰ってこなくて心配していた者の声。 その声を聞いた直後、残されているプティとクラインは絶句し、 眠っていたはずのオタリも…、反応を示して目を覚ます。 「そ、そんな………!!貴方はっ━━━━━!!」 目を大きく見開き、オクトラーケン家の3人が一斉に視線を移したその先にいたのは━━━━━。 「━━━━━プ…、プロンジェさんっ………!!!?」 「やぁ、久しぶりだな。」 赤い血の跡がついた銃口を斜め下に下ろし、自分達を穏やかな表情で見つめていた。 いなくなる前の…、あの頃と変わらない様子のプロンジェに対し、 プティも、クラインも、そしてオタリも…ただ、愕然としていた。 その3人の…以前とは様子の違う3人の様子を見て、プロンジェが首を傾げる。 「…どうしたんだ?皆は、おれを探してたんじゃなかったのか?」 「………あ………。」 にっこりと微笑みそう話すプロンジェを見るなり、 3人は…自分の心が声にならない悲鳴を上げているような気がした。 水の中で話したプロンジェが、海面に飛び上がり、その姿を現す。 飛び上がっては3人と同じ氷の陸地に上がり、3人へと近づく。 プロンジェが近づけば…、3人は思わず後ずさる。 プロンジェが一歩、一歩と前に歩けば、 3人は一歩、一歩を後ろに下がる。 「…違うです…。違うです…。」 ………優しく微笑む姿は、紛れもなく自分達が知り、主が愛するプロンジェだというのに。 違う。何かが違うのだ。…確かに、プロンジェから感じたモノの中には優しさも含まれていた。 だが…、今はそれだけではなかった。それだけではない何かも混ざっていることに気付いたのだ。 「…どうして、下がるんだ?どうして、逃げるんだ?」 あの頃と変わらない優しい表情。それが…反って恐ろしく感じたのだ。 中でも、優しさの中に含まれる異常性に耐えられないのだろう…、クラインは怯えに怯え、 「━━━━━いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」 物凄く大きな、甲高い悲鳴をあげて…、クラインは1人、海の中へと飛び込んでしまった。 恐怖心に囚われ、逃げることを選んでしまったクラインを、プロンジェは追いかけない。 クラインが1人いなくなったところで、プロンジェの目的は…大聖ただ1人に変わりはないのだから。 プロンジェに恐怖心を抱き、プティとオタリは大聖の傍まで下がる。 まるで、陸の者であるはずの大聖を庇うようなその行為、プロンジェは目を細める。 「…プティ、オタリ。その人は海の世界の人じゃない。  異世界の人を入れるということがどういうことなのかを…わかってるのか?」 「でっ…、ですが…。」 「その人が自ら出ようとしなければ、お嬢様も追い出せとは言わない。  でも、お嬢様も本心としては陸からの侵入者をよく思われてはおられない。  プティ、オタリ。…その人をおれに渡すんだ。  今すぐに食い殺さなくては、後がない。」 「なっ………。」 目を細めては、プロンジェは冷たく…きっぱりと言い放った。 プロンジェの説明に、残されたプティとオタリはギョッとする。 固まるも、その場からどこうとはしない2人を見て、ならば仕方ないとプロンジェは前に出る。 プティとオタリを軽く退けさせ、倒れ込んでいる大聖の方へ近づく。 プロンジェが大聖の首元を掴もうとしたそのとき………、 「━━━━━…本当に、それでいいのか…っ!!!」 3人が話している間に、意識を取り戻せた。 大聖が目を開けて、怒りの目でプロンジェを見つめた━━━━━。 『E-08 ものまにー』に続く。