壁に大きな亀裂が行き渡り、更には白く巨大な爪が壁に食い込む。 力任せに爪を食いこませ、それは壁をへし折るように破壊していく。 壁が破壊される音が止むことなく、ガラガラと崩れていく。 壁一面の殆どが破壊されたとき、外の景色が見えるようになった。 壁の破壊されたその向こうで、大聖は見た。 壊れた壁から、光を捨てた赤い瞳が、ギラリと睨んでいるのを━━━━━。 『しんにゅう』 『ピシッ…!!ガラガラガラ…!…ズゴゴゴゴゴゴッ…!!』 「あ、あれはっ…!!」 宮殿の壁が完全に壊されたとき、壁を破壊し姿を現さんとした人物の顔を見ることが出来た。 それは…大聖にとっては、この宮殿に来る前に見たことのあるもので、 宮守と井守にとっては、初めてみるもの。 壁が破壊されていけば、地響きや揺れも止むことなく起こり続ける。 破壊され…もはや壁と呼べるものがなくなったそこに、 見覚えのある人物…紫色の翼竜は強引に首を突っ込み、突進しようとする。 「お…っ、おいっ!!なんだよこいつはっ!!」 「知るかっ!!一先ず、一旦この館から出ようっ!!」 翼竜の出現に、井守は身体を強張らせて硬直し、 宮守は驚愕と焦燥と含ませた声で言い、井守の腕を掴む。 大聖も、ここは宮守と言う通りだと思い、 翼竜の二度襲われないようにと2人同様に避難しようと駆け出す。 金斗雲は破壊されてしまっている。当分は使えないだろう。 なので、この宮殿内で出会った宮守と井守と共に逃げ出す。 「………おい!どうした井守?」 自分達に迫ってくる翼竜から逃げようとした際、井守の様子がおかしいことに気付いた。 大聖がそれに気付いて声をかけるも、井守はその場で凍りついたように動かない。 そんな井守の腕を、宮守が懸命に引っ張るも井守がビクともしない。 「おいっ!井守!何突っ立ってるんだ!喰われっちまうぞ!!」 動こうとしない井守に、宮守が焦った様子で叫ぶが、井守はまったく動かない。 宮守がどれかで腕を引っ張っても動かないので、大聖がその反対側から井守の身体を押す。 宮守と大聖、2人がかりでも井守は動くことはなかった。 …一方の井守も、なぜ自分の身体が動かないのかがわからなかった。 動かない…いや、動けない身体は目の前にいる翼竜だけを見る。 まるで、蛇…いや、竜に睨まれてしまった蛙の如く、井守は身動きが出来なくなっている。 自分に声をかけているはずである大聖と宮守の声と姿は、…井守にはわかっていない。 井守は、自分が今一体どうなっているのかがわからなかった。 凍結どころか、石化して重くなってしまったかのように…身体が動かなかった。 ………動けないからといって、井守をおいてなんかいけない。 ━━━━━神でもある大聖、大蛇である宮守ならまだともかく、 神でも怪物でもない井守にとっては…、この翼竜が放つ気は強すぎた。 「………なんか、しょうがないわねー。」 それを身体で感じ取った…1人取り残されているソマが井守の近くに寄る。 大口を開けて自分達を食わんとしている翼竜の方をチラリと見ながら、 井守の状態を理解出来ていない大聖と宮守に話す。…大きな溜息を付きながら。 「あんた達、この坊やはこいつの威圧感で半石化してるのよ。  だから、どんなに声かけたって動かそうとしたってこの坊やには届かないわ。」 「石化…?竜や大蛇が古来から使っていたと言われている術の1つか?」 「正解。昔は蛇の頭の女だけが出来たらしいけど、今じゃやろうと思えば竜とか大蛇なら誰でも出来るみたい。  そっちの坊やと女の子に効かないってことは…、あんた達、2人とも只者じゃないわね。」 …こんな緊急事態に、よくもまぁ呑気に話していられるものだ。 ソマが適当に説明すると、大聖が眉を寄せながら問う。 …翼竜は決して空気を読む気はない、動けなくなった井守を中心の大口を開いて飲み込もうと翼竜が動き出す。 バックリと開けられた口には牙がビッシリで、その先から唾液がいくらか飛び散る。 井守が食われようとしたその前に、ソマが翼竜をキッと睨んで立ちはだかる。 その様は、先程の悪女とは一変した魔神のような高貴さがあった。 片手に大きな瓶のような物を持ち、それを翼竜の口の中目がけて投げつける。 ………物が口の中へ入れば、反射的に開いた口を閉ざしてしまう。 『………パクッ。』 『ゴクッ………。』 ソマが投げつけた瓶を、翼竜も反射的に飲み込んでしまった。 その際、翼竜に動きが一瞬だけ止まった。 その瞬間を付いて、大聖と宮守が動けなくなった井守の身体をグッと持ち上げる。 ソマに前に立ってもらいつつも、2人が逃げようとすると………。 『シュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ………!!!!!』 蒸気の立つ音と共に、翼竜の口から白い煙が漏れ出す。 その様を見て、「よし。」と小さく呟けばソマは翼竜の様子を窺う。 ………すると、翼竜は突っ込んだ穴から顔を出し、もがくように暴れ出す。 翼竜が暴れ出す旅に地震が起こり、4人は宙に浮く。 「おい、おまえこのドラゴンに何をしたんだ?」 「時間稼ぎよ。この竜の体内の炎を消火して口を開けられなくしただけ。」 「?…なんでそんなことを?」 「こんなデッカイ侵入者、黙って見てほっとくわけにゃいかないもん。  ほっとけないのはあんた達も同じでしょ。あたしが時間稼ぎしてるうちに、とっとと逃げなさい。  あたしの内部からかけた術も、効果は永遠じゃないわ。」 「………っ!!」 宮守が不思議がりながらも動揺の様子で言えば、ソマは片手を上げて困った顔で返した。 身体の中に蓄積させた、外部の者への攻撃手段として吐く黒い炎の消火と、口封じ。 一時的な効果とはいっても、井守が助けられたことを含め、ありがたいことだった。 翼竜は、身体をジタバタさせながらもがいている。 体内の炎が消火されることで起きる蒸気や煙と、塞がれた口。 それらのため、呼吸がうまく出来ないのかもしれない。…息苦しそうにしている。 この宮殿より大きい体格の翼竜が暴れる度、ドスン、ドスンと大きな音がなる。 その様子を見て、大聖と宮守は頷き合って井守の身体を支える。 逃げるなら、この竜が襲ってこないうちの方がいい。 意見が一致したところで動き出そうとしたとき、大聖がソマの方を見る。 宮守の方も、翼竜の出現以降酔いが醒めてきているらしく、大聖同様にソマを見た。 「…俺達は逃げるが、お前はどうする気だ?」 「ん?あたし?」 ふと、大聖がソマに問いかけた。 それに対し、ソマも率直に答える。 「決まってんじゃない。自分の居場所くらい自分で守るわよ。」 「お前は…逃げないのか?」 「馬っ鹿ねぇ。あたしがいなくなったらこの宮殿もぬけの殻よ?  あんた達は、もともとこことは無関係なんだし。」 「…腐っているように見えて、結構立派なんだな…。だが、おかげで助かるよ。礼を言う。」 「どういたしまして。わかったら早く行きなさい。」 ソマの答えを聞いて大聖が少し感嘆すると、ソマもにへらと笑って手を振った。 最後に、「…では!」と言って、3人は宮殿から出ていった。 ソマは、暫くもとには戻らないであろう翼竜をただ見つめていた━━━━━。 ………。 「━━━━━うっ…。うぅっ…。いててっ…。」 ソマの宮殿から離れ、3人は共に街へと戻ってきた。 宮殿に入ったときから空の様子は変わらない、空は暗いままだった。 とりあえず、翼竜に気にやられた井守の回復を待とうと、大聖と宮守は安全そうな場所へ移動する。 2人が見つけた場所は…、人気のないどころか人が住んでいる形跡のない場所だった。 その近くには、ある建物が建っているが2人は気付いていないようだ。 住んでいる形跡もなければ家具等もない、大聖が地面に井守を寝かせる。 そのせめてのものとして、井守の頭を宮守が乗せる。 暫くそのままの状態を保ち、井守の回復を待つ。 …数分が経過した頃、気付いたのか井守が呻き声をあげた。 強張った意識の中、瞬きを何度も行って先に見える者がなんなのかを見つめる。 「…あ、あれ…?月…?」 「あぁ、気が付いたか。井守。」 「んっ…、んんっ…?り、宮守…?」 目を覚ました井守の肩を軽く叩きながら、宮守が優しい声をかける。 井守の視線の先には、宮守の確かな姿が…そこにあった。 自分が気絶していたか、あるいは眠っていたかと考えて、 井守は仰向けになっていた身体を起こし、目を片手で擦る。 「宮守…?大聖は…?」 「大聖なら、ぼく達と一緒にいる。」 「えーっと…、あとは…あのゲス女は…?」 「あの悪女のことか?彼女はここにはいない。」 「…ていうか…、ここ、どこだ?」 「ここは外だ。もうあの酒臭い宮殿の中ではないよ。」 「外…。」 ぼんやりした意識と、イマイチ掴めていない状況を知ろうと、 井守が疑問をいくつか述べて、宮守がそれに返答する。 宮守から話を聞いて、井守はポカンとして今の場所を見つめる。 「…あれから、外に出たのか…?」 「あぁ、とんでもないやつが侵入してきたのでね。そいつから逃げていたんだ。」 「ん…?逃げた…?一体どういうことだ?」 「そいつはこんな暗い街でも目立つから、見ればわかることだろう。」 井守が立ちあがって首を傾げると、宮守は腕を組んで空に浮かぶ月を見つめた。 宮守と井守のやりとりを聞いていた大聖も歩み寄り、2人の会話の中に入る。 「あいつも放っておくわけにはいかなさそうだが、…今は逃げた方が賢明だ。  俺は、あいつの一度やられそうになって術を1つ失っている。」 「術?なんのだ?」 「空を飛ぶ術だ。ソマの宮殿に行く前にもあいつに襲われたんだが…。  その際にその術を失ってしまった。あの紫色の翼竜…、相当なものだぞ。  俺の術を失わせ、井守を半石化状態にさせたなんて…。」 「あぁ、ソマと言ったか?あの神酒が助けてくれなければ、ぼく達は今頃やつの胃の中にいただろうな。」 「………へ?あの悪女が助けてくれたんか?」 「一応、な。正直、俺も少し意外だが…。」 大聖が夜空を見上げて言えば、宮守が少し首を傾げて言った。 そこで、大聖は自分に空を飛ぶ術があるものの、それを失ってしまったことを教える。 ………金斗雲の破壊され、空を飛ぶ能力を失ってしまった。 ただ、仮にそれが復活したとしても、井守はともかく大蛇である宮守を乗せられるかは疑問だ。 金斗雲は、基本的に自分達神の乗り物だ。神と敵対し厄介者と言われる大蛇が乗れるものなのだろうか。 なので、大聖は街の建物の中へ紛れ込むことで、翼竜の目を暗まそうと考えている。 一方、自分達を助けてくれたのはソマだということを知り、井守は間抜けな顔で間抜けな声をあげた。 自分達をあれだけ弄ぼうとし、追い詰めんとしていたソマが、なぜ自分達を助けたのか。 ソマ本人は、『自分の居場所を守るため』と言っていたが、これが本心なのかはわからない。 それでも、1つだけ確実に言えることがある。それは………。 「とはいえ、翼竜を倒すことは出来なくとも時間は稼いでくれると言っていた。  その間に、俺達はあの翼竜の目に届かない場所へ避難しよう。」 「あの翼竜に目をつけられた以上、この世界でうろつくということもうかつに出来なくなったからな。」 「…そうだな。なんか、とんでもねぇことになっちまったな…。」 大聖が真剣な表情で言うと、それを聞いた宮守と井守も大きく頷いた。 その後、3人はそれぞれの武器を構え街の建物の間を走っていく。 建物と建物の間を縫うように走り、翼竜の視界に見えない位置をキープする。 相手は…竜。竜と言えば神々と敵対している種族だ。 その種族が相手となれば…、一筋縄ではいかないだろう。それは、神のみならずここにいる大蛇にとってもだ。 尤も、大蛇と竜は近い位置に近い種族関係に当たるため…、宮守なら1人狙われない可能性もある。 だからといって、そのどちらでもない大聖や井守を放ってどこかへ行くなどということはしないが…。 建物の中でも、屋根のある建物を優先的に探して影の中へ入っていく。…本当に、人が誰1人いない。 その光景を不気味に思いつつ、3人はなんとか隠れそうな場所を探して走っていく。 「………なぁ。」 走っている途中、ふと井守が声をかける。 「隠れるってなら、いっそのこと暗い場所に飛び込んだ方がいいんじゃねぇの?」 井守の言ったことに、最前列を走っていた大聖が振り向く。 それで、少し困った顔をして振り向く。 「見つかりにくいという意味では一理あるが…、それでは俺達にとってもどうかと思うぞ?  真っ暗な場所となれば、俺達にも何も見えないことになるからな。」 「確かにそれもそうだけどさ…。どうすんだ?  逃げるっつったって、このまま走り続ける気か?  これじゃあ、いずれは見つかっちまうんじゃねぇの?」 「しかし…、かといって死角の中へ飛び込むなんて…。」 「………いや、待てよ。」 井守の問いに皆が立ち止まり、大聖と井守が口論を始めた。 それを1人聞いていた宮守が、右親指を顎に当てて考え込む。 少しハッとして、何か思いついたのか大聖と井守の方を見て頷く。 「懐に隠れるのが一番という意味では、井守の言うこともありかもしれないな。」 「懐…?それは一体どういうことだ?」 「ぼく達大蛇や竜は、かつてこの幻想世界にいた…悪魔様の元で過ごしていた。  悪魔様が過ごしてたのは、この場所の通り暗い場所だ。  これは神の間では知られてはいないことだろうが、  大蛇や竜はその悪魔様の使いとして動いていた時期があったんだ。」 「?…んじゃさ、大蛇や竜も昔はこの世界の暗い場所に住んでたってことか?」 「あぁ。まっ、悪魔様全員がいなくなった今の時代じゃあ…その関係を断ち切った者もいるが。  悪魔様や竜、大蛇を除いた種族なら…何かあれば明るい場所へ逃げたがる。  暗い場所…闇は多くの心を弱くし不安にさせるからな。  そんな場所へ、まさか隠れているとは思わないだろう、ということだ。」 「弱める怖い場所へ逃げるわけがない、それを逆手に取るということか…。」 宮守の説明を聞き、大聖と井守は感心したような様子で宮守を見た。 今は自分達に協力している宮守も、その大蛇のうちの1人なのだ。 宮守なら、暗闇に入っても心弱まることはない。 ならば、その宮守と一緒にいれば…自分達も弱まることを避けられるかもしれない。 確実なものではないだろうが、試してみる価値と意味はありそうだった。 …大聖は、倭国での出来事を思い出す。 そう言えば、宮守が人質として歩目と閉じ込めていた場所や、 大蛇と化して人々を食い殺していったその場所も、闇に包まれていた。 悪魔という者が一体どんな者達なのかはわからないが、 その者達の下で過ごしていたことがあるのなら…、 大蛇や竜にとっては、光よりも闇の方が適した場所にはなるのかもしれない。 その悪魔の影響を受けて、適応していったというなら………。 宮守の説明を聞き、コクコクと頷きながらも井守が大聖の方を向く。 「なっ?やっぱそうだろ?ここはいっそのこと、竜に馴染み深そうな場所に隠れてみようぜ。  そりゃあ…おれやあんたには適さないだろうけどさ。」  このまま走ってたら、クタクタになっちまってそれこそ喰われっちまうよ。」 宮守の説明に同感だと示すように、ニッと笑って井守が言うと。 「………あぁ、騙されたつもりでやってみるか………。」 観念したのか、大聖も苦笑いを浮かべて頷いた。 ………。 ………その暗い場所を探すのに、それほどの時間はかからなかった。 3人が避難したその場所は、沢山の鉄格子が並び、手錠や足枷、そして鎖等の鉄の破片が散っていた場所。 これらの光景を見てみると、自分達が逃げた場所は牢獄であることがすぐにわかった。 ただ…、やはりこの牢獄にも人は誰1人いなかった。 この牢獄へ入るなり、3人は目に見える範囲で簡単に探索を行う。 鉄格子近くのプレートには…、かつてここで投獄されていたであろう囚人達のナンバーが記されていた。 「やっぱ、昔は人がいたってことなんかな。」 「…いや、これは…。」 井守が不思議そうな顔でプレートを触れば、隣で宮守が目を細め、鉄格子の向こうとジッと見つめる。 「…井守、大聖。ナンバーが記されているプレートをよく見てみろ。  そこにナンバーの下に…種族名が書かれている。そして、その大半は…竜だ。」 「竜…?」 鉄格子近くのプレートを見て宮守が言うのを聞き、大聖もそこへ歩み寄る。 傍まで寄って見てみると、宮守が言った通り…ナンバーの下に種族名が記されていた。 あのプレートには『ドラゴン』、またあるプレートには『ドラゴン』と、 記されている種族名は、竜のことを示すものばかりだった。 それを見て、大聖はなぜこの街…いや、世界の人が誰1人いないのかを考える。 ここで初めて出会った人物はソマと、あの紫色の竜人だけだ。 過去に、この世界に住んでいた人々は、この世界に集う竜に食べられてしまったのだろうか。 そしてその竜達は、この牢獄に囚われて…やがて受刑して散っていったのだろうか。ただ…。 ━━━━━なぜ、この幻想世界で人らしき者を誰1人見かけないのかが、薄々わかってきた。 「なぁ、宮守。少し聞いてもいいだろうか?」 「構わないが、一体なんだ?」 鉄格子のプレートとその推理が嫌な予感を呼び、…大聖は思わず宮守に話しかける。 「お前達大蛇や彼等と同等に当たる竜は…、根本的には人食いなんだよな?」 「あぁ。個人個人で多少の個性はあるだろうが、それだけは確かだ。」 「なら…、ここに囚われていたであろう竜達の存在や、  この世界の人らしき者を見かけないのはまさか━━━━━。」 慣れているのか、抵抗が出来ているのか。 平然をしている宮守に、大聖が顔色を悪くしながら台詞をすべて言い切ろうとしたとき。 3人には見えていないその場所で、その位置で。 3人がいる牢獄の真上を、大きな竜の影が横切った。 『バコォンッ!!!!』 「━━━━━うわっ!!?」「━━━━━っ!!?」「━━━━━危ねっ!!?」 牢獄の天井から突然太い足が突っ込んできた。 それに踏みつぶされんとしたとき、3人は短く声をあげて一斉に避ける。 意地悪をせんと言わんばかりに、その足は突然生えてきた。 ………否、牢獄の外から足を突っ込んだのだった。 「まっ…まずいっ!!皆逃げろっ!!」 「くそっ!!おれの提案も失敗だったかっ!!」 宮守と井守が険しい顔で叫ぶのに聞く耳も持たず、巨大な足は前へ進もうとする。 牢獄の中で突っ込んだ足を一度引っこ抜き、もう一方の足を突っ込んで3人に迫ろうとする。 「(…ソマの時間稼ぎも、駄目だったということか…。)」 大聖のこの呟きも、今目の前に現れた巨大な足を前に…声にならずに消えていく。 まるで、自分達だけを狙って追いかけ回そうとしているその足に、 3人は…暗い牢獄の中で出口を探し逃げようと走り出す。 『G-06 ろうごく』へ続く。