━━━━━やがて夜が明け、暗かった幻想世界にもようやく朝が訪れた。 ただ…、朝が訪れ光が差し込んだとはいえど、陸や海の世界の朝とは違う…。 空に浮かんでいた月は太陽と入れ替わり、地上へ光を降らせたものの、 自分達の世界の光に比べ…、淡く弱弱しいものだった。 しかし、その少量の光とはいえど、目の前に倒れ込んでいる魔竜…ドリソンには効果があった。 光を浴びたドリソンの姿は、見る見る人の姿…男性へと変わっていった。 薄い青紫色の髪、その色を同じカラーとグレーのボーダーの服。 首元をはじめとした身体の部位に付けられている、沢山の鎖。 そして…大聖がここにやってきたばかりのときに見た、2本の角。 大聖は、その男性の姿を見て…驚いた。 あのとき出会った男性が竜人であることはわかっても、 まさか…ドリソンと同一であることまでは、わからなかったのだから━━━━━。 『しょうたい』 「なっ…!こ、こいつは一体…!」 「ね。」 姿が竜から人へと変わったその様は、ソマを除いた者達を驚かせた。 驚きの声をあげた井守が、うつ伏せに倒れ込んでいる男性に近づく。 男性の方へ駆けつけると、その湿った手で男性の両肩を持ち、仰向けにさせる。 …井守の毒の影響だろう、男性は…苦しそうに顔を歪ませていた。 食いしばっている歯の中には、大蛇と化した宮守と同じような牙がある。 「おい、井守。危ないぞ!」 「………この男………。」 男性を仰向けにさせた井守に、大聖が慌てて駆けつけ、 一方の宮守は…落ち着いた様子で歩いてきた。 宮守も井守同様に男性に近づくと、その姿を眺める。 目を細めては、興味を示したようにじっくりと見つめている。 倒れた男性の全身を眺めてから、宮守がソマの方を向く。 「…暗い場所ではあの竜に、明るい場所ではこの人の姿に変わるということか?」 「その通りよ。尤も…竜としても猛威を振るってるのは、前者のときだけどね。  人型のときも、人間を食べるっちゃ食べるけど…その姿で食事をすることは滅多にないわ。」 「それはどういう意味だ?」 「本性はどっちだと聞かれたら、魔竜の方が合ってるってことよ。  朝とか昼間のときは、けっこうこそこそしてるし。  こいつが本領発揮するのは、竜の姿のときなの。」 「………。」 宮守が目を細めて落ち着いた様子で聞くと、ソマは目を閉じて溜息をつく。 人から竜へと変わり、竜から人へと変わる。 その様は、大蛇と人とへ変化する宮守と同じことが言えた。 ただ…、その変化が本人の意思に関係のないものだというならば。 「もし倒すとしたら、明るいうちに…というのはこういうことなんだな?」 「えぇ、それもその通りよ。ぶっちゃけ、暗い場所でのこいつは無敵。  こいつは、光に当たると身体に深く刻み込まれた術が反応して、この姿になるの。  光を浴びると身体に潜在してる術が発動して、力を抑えられちゃうのよ。」 「術…?大蛇や竜には、術は効かないはずでは…?」 「こいつがその術を受けたのは、竜や大蛇が神々の術に耐性をつけるずっと前の話よ。  身体に…言ってみれば呪いみたいに植え付けられたし、  何より内側から発動するから、耐性も無視されるわ。  ま、その術はあたしとバイメンがこいつをこの牢獄に閉じ込めるにあたって染み込ませたんだけどね。」 宮守の問いかけを引き継ぐ形で大聖が問うと、ソマは倒れている男性を眺めながら説明した。 ソマの説明を聞き、大聖と宮守が互いに相手の顔を見る。 ソマの話によると、ドリソン…この男性は過去にバイメンとソマに手によってここに投獄された。 その際…なのかは定かではないが、光に反応し体内から発動する術をかけ、力を少しでも抑えようとした。 しかし、先程までのドリソンの様子から考えると、 そのバイメンやソマでも完全に力を封じ込めることは出来なかったようだ。 それもそのはず、単なる力押しではまず勝てなかっただろう。 井守の毒があってこそ、今の自分達がいるようなものだ。 ソマの話を聞き、大聖が自分の顎に右親指を当てて、考える。 それで、ソマの方を向いて確認するように聞く。 「ソマ。確かこの竜が投獄されたり術をかけられたりしたのは、  必要以上の人間や命を奪うのを見て、危険に思えたからだったな。」 「えぇ。自分が生きるのに必要な命を食べる、それならまだ納得がいくけど、  こいつは必要以上の力を振るい、たっくさんの命を奪っていったわ。」 「…成程、神や神酒からの視点が、それか…。」 「視点?だから何なの?」 「悪い、先にこちらの彼女の話を聞いてくれ。」 大聖の問いかけにソマがぶっきらぼうに話した。 すると、それに頷いてから今度は宮守にこんなことを聞く。 「なぁ宮守。大蛇であるお前なら、もしかして…  それと同等として扱われてきた竜のことも知っているのだろうか?」 「…?…まぁ…、大まかなことならば知っていなくもないが…。」 「ん?何々、大蛇ですって?」 「んー、うちの宮守、実は大蛇(おろち)なんだわ。  あんたの酒あんなに求めたのはそれもあんぜ。」 「えっ?そこの女の子大蛇だったの?」 「ま、今となっては大蛇も竜と同じくらい希少だからな。まさかこんなに近くにいるとは思わないだろう。」 …自分の正体にさりげなく触れ、それに驚くソマの方を見ては…宮守は微苦笑を浮かべた。 大聖の問いかけには、少し困った顔で宮守が返す。 両腕を組み、自分達大蛇と同様の扱いを受けた竜のことを、思い出そうとする。 「あー、あれだ宮守。知ってることならなんでもいいんじゃねぇか?  この竜に触れるってなら、どんな知識も無駄にはならないだろうし…。」 「竜、か…。」 井守が少しあたふたしながら話すのを聞き、宮守が少しだけ顔を上げた。 「竜は確か…、ぼく達大蛇と同じように身体に鱗を持ち、  鱗人の祖先であると同時に忌々しい存在として扱われてきている。  竜も大蛇と同様に人を食う。それは、エアリーのような純人間であってもだ。  腹を空かせ人間を食するときは、大蛇なら主に女性や子供を狙うが竜は不明。  あとは…、そうだな。かつては悪魔様の使いとしても動いてたということや、  どちらとも熱さに強く寒さに弱いということか…。  ただ、総合的な力量で言うと…、厳密には大蛇より竜の方がわずかに上だ。  それでも、大蛇と竜の間に種族差から来る上下関係はないが…。  一応、大蛇も竜も近い種族と言えばそうだし、対等に扱われて━━━━━。」 「━━━━━どこがっ………!」 ………突然、あまり記憶にない声が宮守の説明を遮った。 その直後、竜人の男性の身体を支えていた井守に、刃物のようなものが振り下ろされる。 『ブンッ!!』 「うおっ!!?」 「井守っ!!」 それを、間一髪のところで後ろに下がり避けるも、足をふらつかせその場に尻もちを付く。 尻もちをついた井守の身体を、後ろから大聖が支えてあげた。 そんな大聖と、支えられた井守が同じ方向へ視線を向けると、 自分達4人の近くにいた竜人の男性が、動き出していることに気付く。 竜人の男性は、片手と片膝をを地面につき、顔をあげた。 上げられた顔。その中で真っ先に目に行ったのは真紅の瞳だ。 その様は、命を喰いその分だけ赤くなりしまいには…光すら隠れてしまったよう。 竜人の男性は、ギッと歯…否、牙を食いしばり4人を睨む。 「このザマのどこがっ…!!対等な扱いだってんだっ!!!!」 『ガスンッ!!!』 自分の力を抑え込み、封印してその挙句の果てに、投獄して外に出られないようにされた。 そんなことをした神々に対しての憤りが…、今、彼をこんなことにしているのか。 怒りを顔や声に出しながら、竜人の男性は地面を手で抉り取る。 一見、硬い床と思われたが抉り取ったその場所には拳1つ分の穴が出来、小さな破片や石も散っていた。 夜が明ける前までの彼はドリソン。しかし、夜が明けた今は…別の顔となってここにいる。 そう彼は………━━━━━。 「━━━━━テメェらっ!!!1人たりとも逃がさねぇっ!!!  この場でっ!!!全員っ!!!!このオレが食ってやるっ!!!!!」 相当たまった怒りを爆発させ、竜人の犯罪者…プラソンは立ち上がり、 雄たけびに等しい声で宣戦布告した━━━━━。 ━━━━━そんなプラソンが、なぜ脱獄したのかはわからない。 もう1つ、自分がこの世界に招いてしまったあの2人組のこともあるというのに。 ただ、そちらの方は…かつては同じ種族、今は違う種族のエアリーなら…なんとかしてくれるかもしれない。 あの2人組がエアリーと違う種族とはいえ、その心はエアリーと同じ種族のままなのだから…。 だから、今自分は宮守や井守、そして大聖が来ているこの世界に戻ってきた。 プラソンの脱獄。それを聞きつけて自分も危険を感じた。 今は、3人の傍に自分の知り合いであるソマがいるものの、ソマだけでは押さえられないだろう。 プラソンが過去にように表に出てしまったら、どうなるかなんてわかったものではない。 この幻想世界に、陸や海の世界が飲み込まれてしまうかもしれない。 夜になりドリソンとなれば…、世界全体が黒い炎に焼きつくされてしまうかもしれない。 すべての命や食いつくされ、世界そのものが崩壊してしまうかもしれない。 …プラソンは、竜でありながらも仕える存在だった悪魔という者達のいうことも聞かなかったらしい。 自らの力に溺れ、破壊を殺戮を繰り返す。…誰よりも、危険な存在なのだ。 そして何より、プラソンは容赦や手加減を知らない。 あの2人組のことを放り出すということは、無責任だということはわかっている。 それでも…、神がいなければどうにもならないプラソンに、好き放題されるよりかは………。 ソマの仲間であり、プラソンを投獄させた張本人であるバイメンは、 幻想世界へ行き、もう一度プラソンを止めることを選んだ━━━━━。 「━━━━━な…なんだなんだ!!?人になったかと思えばいきなり叫び出したぞ!!!?」 「うっせぇ!!!こんのクソガキャアッ!!!」 プラソンの態度を見て井守が動揺するのにも関わらず、プラソンは怒鳴る。 井守のうろたえる様なんてお構いなしに、プラソンは腕を振り上げて井守を皮膚を切り裂こうとする。 井守がそれを避けようと動き出すも、間に合いそうにない。 プラソンの竜の爪は、真っすぐに井守へと振り下ろされる。その瞬間、 「井守、危ないっ!」 『ドンッ!!』 「うあっと!!?」 宮守が井守を真横へ突き飛ばし、構えていた草薙剣でプラソンの爪を受け止める。 宮守は、プラソンの気に怯むことなく、プラソンを鋭い目つきで睨み返す。 自分の攻撃を受け止められたプラソンは、そのまま宮守を押しつぶそうとするのに対し、宮守は刀身を両手で持ち、 「………むんっ!!」 『カキィインッ!!!』 「んなっ!!?」 刃と爪が弾き合い、高く鋭い音が鳴り響いた。 そうさせんと力を込めてプラソンの爪を弾き返したのだ。 宮守に自分を腕を弾き返されたプラソンは、ほんの一瞬だけ驚いた顔をするも、 すぐに構え直して宮守と大聖の方をギロリと睨む。 「…大丈夫か、井守。」 「あ、あぁ…すまねぇ、ありがとな。」 プラソンに視線を向けながらも宮守が聞くと、 突き飛ばされたことによりうつ伏せに倒れ込んだ井守が、ホッとして礼を言った。 …真っ先に井守へ攻撃をしかけたプラソンの様を見て、ソマが大きな溜息をつく。 「…人型になっても相変わらずね、プラソン。その喧嘩っぱやさとデリカシーのなさ。」 「るせぇ、テメェは黙ってろ。オレの邪魔すんじゃねぇ。」 「だからといって不意打ちはどうかと思うけど?…ま、あんたのことだから、  人1人殺したり喰ったりしたところで、悪びれることないんだろうけど。」 「わかってんなら口出すな。鬱陶しい。」 「あたしは仮にもあんたの監視役なの。ちょい面倒だとは思っても、  暴れるってならあんたをほっとくわけにはいかないのよ。あと、いきなり襲いかかるのはやめて、  この子達の話の1つや2つくらい聞いてやってちょうだい。」 「ケッ………。」 …大きな溜息を付きながら言うも、その台詞の数々は厳しいものだった。 とはいえ、ソマの表情や仕草からは、少し場違いな感じも漂ってはいるが。 井守に続き、宮守にも攻撃を仕掛けようとしたところでソマが間に入ってくれたおかげで、 井守は体勢を立て直し、宮守は余裕を戻すことは出来た。 ソマに邪魔をされたのが理由か、機嫌の悪そうにプラソンは唾を吐く。 その後、腕を組み…1人無言で構えている大聖の方へ近づく。 「………。」 光を自ら捨てた瞳で、何も言わずに大聖を見下ろす。 それで…、口元をニヤリ、と緩ます。 「よぅ、また会ったな猿野郎。」 「………まさか、俺達を追いかけていたあの魔竜が、お前だったとはな。」 「へっ、流石にオレとドリソンが同一だってことまではわからなかったみてぇだな。  あぁ、そうだよ。この世界のあっちこっちで人を喰ってんのはオレだよ。」 「なら、あのとき俺が見た黒い炎も、お前の仕業か?」 「他に誰がいやがるってんだ。」 プラソンが大聖を見下ろせば、大聖もプラソンを見上げる。 プラソンが嘲笑の笑みを浮かべるが、大聖はそれに煽られることはなく無表情を保っていた。 大聖とプラソンは、一度会ったことがあるのか。 …この緊張しはじめている空気の中で、それを疑問に思っても口にする者は誰もない。 宮守も、井守も、そして…ソマも皆、黙っている。 ━━━━━竜。その種族であるプラソンは、神である大聖にとっての最大の敵。 その竜と同等とされる大蛇…宮守のように人間らしい心が残っているなら、 まだ話は別のところがあったかもしれない。 …ただ、その心があったとしても…人間のみの社会で恐れられている犯罪者だとどうなるのか。 以前の宮守のときのように、人間の手による調和…というわけにはいかない。 このプラソン………一筋縄ではいかないだろう。 それはもう、大聖にもわかっている。 大聖の問いかけに対し、プラソンはさもそれが当然かのように答えた。 フンッ…と鼻で笑ったかと思えば、すぐに大聖をキッと睨む。 立ち上がったばかりのときとは異なり、自分にとっての宿敵を前にして…、 プラソンは落ち着きを取り戻し、大聖の出方を窺っている。 「…何もしねぇのか?なんなら、こっちから行かせてもらうぜ。  テメェとそこのガキ2人とソマ。1人だろうが4人だろうが、  何人でもかかってこいよ。相手になってやんぜ。」 何もしない大聖を見て、早く殺したいと痺れを切らすように言ったその台詞。 「神の連中がオレ達に何しやがったのか、話しながら戦おうじゃねぇか。」 ギロリと睨んでいるその中にあった、自信や余裕。 「………さっきまでのムカつきは、いつの間にか消えてらぁ。  きっと、オレは自分の手で神を喰う日を待ってたんだろうな。  今は、どういうわけかうずうずしてるぜ。」 不敵な笑みを浮かべ、両腕を上げると…再び戦闘体勢に入った。 プラソンの様子の変化を見て、宮守は草薙剣を構え、 井守も少し怯えながらも十拳剣を握り締め、 大聖も如意金箍棒を構えた。そして、ソマは…。 「…あんた達、ちょっとだけお願いがあるわ。」 「…?」 各自自分の武器を構えた3人に、ソマは小声で耳打ちをする。 ソマは目を細め、真剣な様子で託すように話す。 「…あたしはなんとかバイメンを探して、ここに連れてくるわ。  その間、あんた達でなんとか時間を稼いでちょうだい。」 「…プラソンをどうするにしろ、一番悲惨な結末だけは避けようということだな?」 「えぇ、そうよ。」 ソマの意見に大聖が小さい声で聞くと、ソマも小さく頷いた。 「…あんた達の正体が正体でも、それがあいつを止めるっていう保証にはならないからね。  それに、一時的に止めてもまた同じこと繰り返すかもしれないし。」 「だから、老師様…バイメンを連れてニ度とこうならないようにするんだな?」 「わかってんならいいわ。とにかく…任せたわよ。」 「わかった。」 ソマの頼みは少し無茶な気もしたが、こんな緊急事態にじっくり話し合っている暇などない。 大聖をはじめた3人も、無言で頷いた。 その直後…ソマの姿が牢獄から消えた━━━━━。 ………。 「━━━━━もう、一体どこで何してたんだか。」 「………。」 大聖と宮守、そして井守の3人がプラソンを止めているその間のこと。 牢獄から離れた場所にあるゴーストタウンに、ソマは立ち寄った。 そこには…、息を切らし、膝に両手を付いている1人の老人の姿があった。 ソマは、すぐさまその老人の歩み寄り、若干呆れを含ませて話す。 「あたしも、あの子達も、あんたを待ってたのよ。」 「す…、すまん…。」 「あら、別にあんたを責めちゃいないわよ?…バイメン?  どうせ、あいつらが脱獄してから、その影響がこの外の世界にも出てたんでしょ?  あいつら…プラソンにドリソン、力とか半端ないからねぇ。  あいつらなら、陸や海の世界に間接的に影響を及ぼしても、おかしくないわ。」 「う、うむ…。その通りじゃ…。」 探していた人物も、今の自体に危険を察してこの世界に帰ってきてくれていた。 ソマが溜息を付きながらも笑っていたその先にいた人物は…、 かつて、エアリーと大聖の2人に魔法をかけ、海の世界へと入らせてくれた神様だ。 そのプラソンが表に出るということには、流石に安易な楽観視は出来ないらしい。 今のこの世界の状況を話すソマに、バイメンは不甲斐ないと頭を下げていた。 バイメンのその姿に、ソマは苦笑いを浮かべる。 「あんた、世界に残ってる数少ない神さんでしょ。そんなにヘコヘコしないの。  謝る必要なんて、あの子達に手を貸せばなくなるでしょうが。」 「…そ、そうじゃ!そうじゃな…。」 ソマの言うことに、バイメンも少しの笑みを浮かべた。 顔をソマの方へ向けて、バイメンは息絶え絶えになって問う。 「…で、あの子、あの子は今どうしとる?大聖は…?」 「あぁ、あの子なら今頃プラソンと戦ってるわ。でも、あの子達だけに戦わすのは一時的なこと。  あたしはあんたと合流が出来次第、すぐにそこへ向かうつもりよ。」 「そ、そうか…。」 「………。」 バイメンが心配するように聞くと、ソマがバイメンから目を逸らしてそう答えた。 ソマの意見にバイメンがコクコクと頷くも、ソマをそれを見ていない。 ソマは、少し興味が湧いたように、ある名前を何度も繰り返していた。 「大聖…、大聖、かぁ…。あの子、大聖っていうのね?」 「そうじゃが…、どうかしたのか?」 「いやぁね━━━━━。  ━━━━━あの子の謎の使命感、ちょっとあんたに似てるよねって思ってさ。」  …あんたも普段は楽天家なのに、危険が迫ったとわかればそれを防がんと動いてさ。  あの子も楽観的じゃないとはいえ、出会ったときからそんな感じだったもん。  まったく…、あんた達のその意思は一体どこから出てきてるのやら。理解しがたいわ…。 「………。」 ソマのその台詞を聞き、バイメンはほんの少し顔を俯かせる。 無表情で考え事をしたかと思えば、俯かせたまま小さく呟く。 「そうか…。大聖…、お前さん………━━━━━。」 「何?どうかしたの?」 「大聖、お前さんは…神でもなければ人でもない、半神…すなわち、  ━━━━━“英雄”になることを選んだのか………?」 ………この時代において、それになれるのは自分しかいないと思うたのか………? 『G-08 しゅくめい』に続く。