━━━━━準備が整い、再開の用意も出来た。 後は、出会った者達皆を話し、誰が何を出来るのかを聞き、 何をしてもらうのかを決めるだけだ。 『しゅうけつ』 「━━━━━いよいよだな。」 「うん、ここまで長かったなぁ…。」 カウンター、商品陳列場、ギャラリー、裏手の工房と倉庫。 必要だと思った部屋や施設等は狭いスペースながらも、可能な限り設けた。 お客さんに気持ち良く入ってもらおうとなれば、まずは掃除と整理整頓。 1人では手が回らず出来なかったことも、皆で協力し合えば出来上がった。 大聖が少し楽しそうに話しかけると、エアリーもしみじみして頷いた。 募集をかけるのではなく、こちらから仲間を探しに行く変わった方法。 そうした心の奥底の理由としては、部屋に籠っているだけでは勿体ないという安直な気持ち。 だが、そうした結果自分自身も沢山の世界を知り、見ることが出来たし、 多くの種族や、その違った価値観、そして光と闇があることを知った。 一緒に働く仲間を探すなんて、思い切ったことだと思っている。 それでも、エアリーは思い切ってよかったと思えた。 「………なぁ。」 「ん?何?」 皆が集まる前の、2人しかいないカウンター。 大聖が、ふとエアリーに問う。 「働くことはいいとして…、なぜお前は武器を学ぼうと思ったんだ?」 「………あれ?言ってなかったっけ?」 「まだ、ちゃんとしたことは聞いてなかったような気がする。  それとも、単に俺が忘れてしまったのか。」 エアリーが首を傾げると、大聖が困ったように笑った。 大聖の様子を見て、エアリーは「んー。」と悩ましそうな顔で話し始める。 「…この世界って、いろんな種族がいるじゃない?  異種族間だと、どうしても格差とか出るじゃない?」 「あぁ、それはそうだが。」 「私ね、最初は単にその格差を埋めるだけために武器屋しようと考えてた。  一旦お店を閉めて旅に出たその当時も、それが理由だった。  …でも、今はちょっと違うかな。」 「違う?理由が変わったのか?」 「うん。ほら、武器って持つ誰かの心次第で兵器にもなれば凶器にもなる。  今回の旅で、それを思い知らされたわ。  でもね、こんな世界だもの。話し合いで何もかも解決するわけじゃない。  …今なら、幻無が言ってたことよくわかるわ。」 「幻無に何を言われたんだ?」 「『こっちが武器を捨てても、相手も武器を捨てなきゃ仲良くはなれない』って。  相手が武器を捨ててこっちが捨てないなら、拒否の証。  それで危険が及んだなら、戦うしかないんじゃないかって思ったの。」 「………武器を捨てる、か………。」 うまく伝えられただろうか、伝わっているだろうか。 言葉を選びながらなんとか説明しようとしているエアリーに、大聖も腕を組んで考える。 好きなものは変わらなくとも、それに抱く気持ちは変わったというのか。 「改めて理由を言うと、わたしは自分や誰か、何かを守り、そして生きる。  そのお手伝いとして武器を造っていこうと思うの。  ほら、実際に使わなくても持ってるだけで…っていうのも見込めるじゃない?  武器を提供して、100パーセントうまく行くっていう保証はないけどね。  手に取った人次第で、とんでもない物に変わっちゃうし。」 「あぁ、そうだろうな。手に取った者次第で存在意味が変わってしまう。  ただ、誰かが武器を手に罪を犯したからといって、  その武器に罰が振りかかるわけではない。罰は人に行く。  剣や槍に限らず、目に見えない能力であってもだ。  武器の所有が完全に危険であること示すわけではないからな。」 「そうでしょうね。そこだけは、手に取った人次第としかわたしも言えない。」 エアリーが吹っ切れたような笑みを浮かべると、大聖も目を細めて微笑した。 そのまま腕を国、大聖が天井の方を向いて話す。 「武器を片手に食い殺す。自分が生きるためにそうするものの、  それだけは許されるというのも…、妙におかしな話だがな。」 「そう?わたし達の食べてる物って、元をたどれば皆自分より下位の種族みたいなものよ。  食べられる側はそうはなりたくないから、逃げたり戦ったりするんじゃない?」 「最終的に食物として食べるなら殺害は許される。  そうしないなら許されずに罪となる…ということだろうか。  まぁ、俺も死体を野ざらしにしようとは思わない。  殺して放置するくらいなら、加工して食材にするがな。」 「生きるのに必死なのね、皆。でも、だからこそ衝突したり、助け合ったりもするのかな?」 「衝突、か…。そう言えば、そんな奴が1人いたな、こっちにも。」 そのある人物の顔を思い浮かべながら、大聖がフッ…と笑った。 その後、再びエアリーの方を見て笑う。 「理由がはっきりしているならそれでいい。変な理由だったら、  この場で俺はお前にお灸添えていたかもしれない。」 「それは、あの頃のあなたが避けてた通りの、わたしが妙な人だから?」 「案外、そうかもな。」 「もー、こんなところでわたしを疑うの?酷いなぁ。」 「あはは、すまない、今のは冗談だ。」 エアリーが少しふてくされながら話すと、大聖が声を上げて笑った。 笑い終わると、肩を落とし一息つく。 「さて、こう話しているうちに皆がここにやってくるぞ。  お前が助けてくれた、だから今度は自分達がお前を助けようと。」 「別に、私はそういう見返りを求めてるわけじゃ…。」 「さぁな。生物混じりの種族は、世話になったり助けられたりした奴のことを、  今度は自分が助けたくなるようなものだ。…ふふっ、エアリー。  ならば俺もここで一緒に働こうか?」 「………えっ!?大聖がっ!!?」 「…なんだその台詞は。お前も俺のことを疑っているんじゃないだろうな?」 目を見開き、口元を緩ませて大聖がそう話せば、 エアリーは目を大きくあけて、驚愕に似た喜びの声を上げた。 …が、それは大聖からしてみれば疑わしいものだったらしい。 少し顔をしかめ、疑うように聞いた。 そんな大聖を見て、エアリーも困った顔をする。 「…疑ってるって、あなたも人のこと言えないじゃない…。」 「…それもそうだな。」 お互い変な顔をして見つめると、やがて吹き出して笑い声を上げた………━━━━━。 ━━━━━同じ陸の世界から、遠く離れた海の世界から、そして未知数な幻想世界から。 この旅で出会った者達が皆…皆自分のもとに集まった。 その者達だけでも、18人というお店にとっては辛い人数ではあるが、 辛さを辛くは思っておらず、寧ろ嬉しそうにしていた。 集まった者達の顔ぶれを、エアリーがキョロキョロと眺める。 「…よし!」 1人カウンターに立ち、大き目のノートに羽根ペンを片手に持つ。 今からやろうという意気込んだ声を上げ、エアリーが皆に声をかける。 「じゃあ、今から役割を決めるわよー!」 「おぉ、はりきっとるのう。」 「そりゃそうでしょ!これでやっと再開出来るもの!」 エアリーの声に、バイメンが笑えば、エアリーも大きく頷く。 長い間旅に出っぱなしで、働いたことなんてなかった。 それ故に、早く働きたい、働きたいという気持ちが膨らんでいった。 早く再開したくて仕方がないのだが、もう少しお預けとなる。 まずは、一緒に働いてくれると言った者達に、役割についてもらう必要がある。 エアリーの掛け声に、なんの躊躇いもなく最初に手をあげたのは。 「ハイハーイ!!じゃあアタシここで接客とか事務とかするー!!!」 「(…何気にかけ持ち?)」 意欲的な姿勢で高らかに声を上げたのは、シングレースだった。 元気よく主張するシングレースに、ソマがやや呆れ気味に見つめる。 だが、話した本人はそんな視線などお構いなしに話し続ける。 「アタシ、こう見えて昔接客とか接待とかやってたの!!  だから、それをそのままこのお店でもするのー!!」 「本当?うん、ならシングにそれを任せてみるわ。」 「ウフフッ、やったー!」 「(…しかも、あっさり決まってるし…)」 簡単に以前の職や得意分野のことに触れれば、あっさりだった。 まぁ…、エアリーとしても本人達のやりたいことをしてもらう方が気持ちはいいのかもしれないが…。 少しあっさり過ぎないか、とソマが疑問に思っていると、 シングレースに続くように、ボレーラが声を上げる。 「んみゃ、じゃあおいらは外での材料採取に行くとするがや!  あと、もしよかりゃあ皆の昼ご飯作ってもいいがや!」 「ボレーラは、こう見えて料理が上手いからのぅ。  ただ…、これから共に働く者達は皆異種族。  1人1人の種族とそれに合う食材を、覚えられるか?」 「んがや!歩目!そういうのはやる気でカバーするがや!」 「………。」 ボレーラが胸を張って言うと、歩目が悩ましそうな顔をして、夜魔は眠そうな顔でコクコクと頷く。 歩目の様子は、まるでやる気はあるが空回りして怪我をする子を心配するような様。 ボレーラのことを案じているのだろうが、ボレーラからしてみれば疑われていると思い、反論する。 それでも、歩目はどこか悩ましそうにしていた。 …ただ、ボレーラのこの意見が、プラソンの監視というなりゆきでやってきたソマに興味を持たせることに成功する。 「へぇー、あんた料理出来るんだ。それだったらさ、ここで長く働くにしても、  あたし達が自分で昼ごはん用意する手間と荷物が省けるわね。あたしは別にいいわよ。」 「…自分は楽して他人に苦労を任せる、ような言い方だな。」 「何よ宮守。そういうのは効率がいいって言ってちょうだい。  だいたい、こんな狭い建物で全員分のご飯保管しておけるほどのスペースないでしょ。」 「まぁ、本人がいいというならぼくは何も言わないが…。」 ソマがニヤリとしてボレーラに話しかければ、それを聞いた宮守が苦笑いを浮かべた。 それに対し、ソマが仏頂面をして宮守の額をつっついたその少し後、 ボレーラもパッと笑って頷く。 「んみゃ!おいらは大丈夫だがや!食材選びと料理なら任せるがや!」 「ほら、本人もこう言ってるんだしさ。皆も担わせてみましょうよ。」 「ボレーラのご飯は、わたしと大聖も人目おいてるわ。  それに、そういう役割もぜんぜん悪くないわよ。皆の身体の管理って、大事だもんね。」 「おぉ!ならおいらも決まりだがや!歩目と夜魔はどうするがや?」 「わらわか?」 ボレーラが笑うと、エアリーも嬉しそうに笑った。笑い合ったことが了承を示す。 自分の役割が決まると、ボレーラは歩目と夜魔に話を振る。 歩目は、自分のことを指定され、声に出して悩んだ。 …手足のない自分に、一体何が出来るというのか。 悩ましそうにしている歩目、無口なまま首を傾げている夜魔に、ボレーラは困った顔をする。 ボレーラと目が合うと、歩目はハッとしてから申し訳なさそうな顔をする。 「…すまぬ。そのようなことは考えたことがなかった。故に、今すぐこの場で答えは出せぬ。」 「あっ………。」 ………そっか、歩目はボレーラに誘われてここに通うことを決めたようなものか。 そんな歩目に、ここで何をするかなどという望みなんて………。 自分で問いかけた後に、倭国で話したことをふと思い出し…、ボレーラも申し訳なさそうな顔をする。 そんな2人を見て、既に職についており一緒には働けない宮守と井守が顔を見合わせる。 それで、井守の方が歩目にキョトンとした様子で問いかける。 「んじゃ、逆に聞くけどよ。皆が歩目にしてほしいことってあるのか?」 「皆がわらわにしてほしいこと?で、それをわらわに聞いてどうする…。」 「んー、なんとなくな。この手の聞き方もありなんじゃねぇのって。」 「歩目にしてほしい、こと…。」 井守が問いかけると歩目がしかめた顔をするも、 エアリーが右人差し指を顎に当ててあることを考える。 歩目が強く意識するものと言えば、美。 それは、中身と共に磨く必要があるものだ。 歩目と井守が話している間、考え続けやがて頭の上に豆電球を浮かべる。 エアリーは、笑って歩目の方を見る。 「ねぇ、じゃあ歩目。このお店全体を綺麗にしてくれない?  インテリアとか、植物とか置いてみたり。」 「何?わらわがそれを?」 「だって歩目、美にこだわってるでしょ。それをこのお店作りに活かしてほしいなって。  わたしにはそっち方面のセンスとかないから、歩目にさせてみようと思うんだけど…。」 「ふむ…。」 誘われてやってきたこと同然の自分には、大した目的や望みはない。 ならば、そんな自分に皆は何をしてほしいのかを井守によって聞かれ、エアリーに提案された。 歩目は目を瞑り腕を組んだ、考えてみるとそれも悪くはないかもしれない。 エアリーが、自分の興味や得意分野のことを知ったうえで、 自分にそう言ってくれるのは…、歩目にとっても悪いことではなかった。 暫く考えると、歩目は口元を緩ませて笑う。 「わかった。ならばその通りわらわがやってみようぞ。」 「本当!ありがとう歩目!…ごめんね、我儘言って。」 「何を言うか。そなたは、わらわに1つの可能性を与えてくれた。  …今は、それだけでもありがたいことじゃ。」 自分の答えにエアリーが喜ぶのを聞き、歩目も笑った。 その後、自分の足元から見上げていた夜魔の方を向く。 夜魔と目線を合わせるためその場にしゃがみ込み、歩目は夜魔に話す。 「特に目的がないなら、わらわを手伝ってくれぬか?  前に話した夜間の監視を含め、わらわでは出来ぬことをしてほしいのじゃ。」 「………。」 夜魔をまっすぐに見つめ、歩目がそう言うと、夜魔もコクコクと頷いた。 外の世界を知ることで、歩目にも希望が生まれようとしている。 それは、夜魔にとっても嬉しいことだったようで、迷うことなく了解を出した。 その夜魔が手伝うことを決めた。 ちょうど同い年くらいのクラインが…プロンジェやシェリーの足元でもぞもぞしている。 顔を俯かせて、両手を合わせて…不安そうにしていた。 …すると、こちらに音を立てずに近づいてきたオタリに、軽く背を叩かれる。 プティは、クラインが向いている方向と同じ方向を向くようにしている。 オクトラーケンの者達は、クラインを除き何も言おうとしない。 自分が知る4人が何も言ってくれない、ある意味ではクラインにとっては大きなプレッシャーだ。 これまでは助けてくれた4人が、今は助けを求めてもあえてそれに応えようとしないのか。 ただ、だからといってクラインを意図的に追い詰めることはせず、 クラインと目が合えば…4人は微笑して大きく頷いた。 その頷きが、クラインに勇気を与えてくれた。 「あ、あ、あ、あの…。」 「何?クライン。」 「ワ、ワタシもそのっ…み、皆さんのお仕事、て、手伝ってみて………。」 知人以外の者の視線に圧迫されしどろもどろになっても。頑張って伝えようとする。 「………一緒に、て、手伝うですっ!」 「………。」 目をキュッと閉じ、だが自分が伝えたいと思っていたことは言い切った。 クラインを除いたオクトラーケンの者達は互いに見つめ、 話しかけられたエアリーは、クスリと笑った。そして、 「ありがとう、クライン。」 と御礼を言えば、クラインの頭を撫でる。 …そうされた直後はビックリしたが、撫でる手から温かさが伝わってくる…。 エアリーに撫でられると、クラインは「え、えへへっ…。」と小さく笑った。 クラインの頭を撫でる手を止めず、残る3人…、 プラソン、幻無、そしてネクラの方を向く。 プラソンはお店での暮らしに興味がないのかつまらなさそうな顔をして、 幻無は悩ましそうな顔で、ネクラは無表情のまま見合っていた。 そんな3人にエアリーが問いかける前に、大聖と顔を見合わせる。 大聖は、困ったように笑って3人の方を見る。 「…なんだか、わけがありそうだな。」 「えぇ、まぁ…。いろいろと。」 「何さわけって。今それをこの場で話せなんていったら、全員公開処刑だからね?」 「わかってるわ、幻無。」 大聖の台詞に幻無が口を尖らせるも、怒らせまいとエアリーが宥める。 エアリーの、幻無に対する態度を見てから…プラソンがそっぽを向く。 「オレは誰の言うことも聞かねぇ。誰がどう言おうが、自分のやりたいようにする。」 「それでもいい。お前は、もっとこの世界の人々や生き物を見てみるといい。」 「………ケッ。気にくわねぇの。」 そっぽを向きながら話したことは、態度は、…捻くれた者。 ただ、元いた世界に帰りたいとは言わず、自分達に直接的な否定を浴びせることはなかった。 …どういう行動を取ろうが、プラソンがまだ知らないこの世界を見てくれる。…それだけでも十分だった。 大聖が、悲しげな…だが困ったようにも見える笑みを見せた。 …この世界の人々を、生き物を知らない。それは幻無とネクラも同じだった。 ネクラの方が、エアリーの方をずっと見つめている。 エアリーもネクラと視線を合わすが、ネクラは何も言わない、言えない。 言えない、それは幻無も同様だった。 そんな2人を急がせることはせず、エアリーも仕方ないと笑った。 「…決断は急いでないわ。気が向いたら皆と働く。その程度の気持ちでいいの。」 「………。」 エアリーが微笑して言えば、幻無とネクラは、ほんの少しだけ目を見開いた。 …が、やはりこの場で意思を示すことは、しなかった。 ━━━━━お店が揃い、品が揃い、そして同じ目的を持った仲間が揃う。 1つの目的を掲げながらも皆がそれぞれの役割を担うことで、助け合う。 違う者同士だからこそ、目で見てわかる程の沢山の違いが沢山ある。 見た目から力差、能力、性格、心…。何から何まで違うのだ。 ときには衝突したり、危険や悪意に晒されたりすることもあるが、それは1人1人の心次第で向き合える。 そして、助け合うということは今後も続けていきたい。 悪い仮面もあれば、善い仮面もある。1人1人の違いさえを気にさせない、 互いに仲良くなった者達が見せるのは、善い仮面━━━━━。 こうして、2人の長かった旅は終わり、武器屋は無事に再開した………━━━━━。 『Personars』完結━━━━━。